-Firenze-

”何か”をなくした夢を見た。いつも近くにあった、とてつもなく大切な何かを・・・。
胸に感じる恐怖感を断ち切りたくて、必死に目を開ける。
けれども消えない胸の痛み・・・。”何か”を引きとめようと伸ばした腕が、手が、虚しく宙を掴む。
・・・あれ?何をなくしたんだっけ?

ベッドから抜け出したけれど、漠然とした不安だけが残って、心は落ち着かない。
いつもと”変わらない”ということを手に入れたくて、とりあえず、窓の外を見下ろした。

起抜けには眩しすぎるほどの日差しが差し込んだ。
何も失ったものなんかないように見える花の都フィレンツェ。それでもまだ足りなくて。
そうだ、バールBarにエスプレッソでも飲みに行こうか。
飛び交う言葉がイタリア語だけではないこの街。いろんな顔が行き来し、賑やかで、けっこう好きなのだ。
ちょっぴり急ぎ足でドゥオモの脇を抜けて、行き付けの店に向かう。

Duomo(花の聖母教会)

「Ciao!」
浮かない顔をしていたのか、何かあったのかと問い掛けてきた馴染みの店主に、今朝の夢のことを話してみる。
「店主の大切なモノって何?」カウンターに頬杖ついて尋ねた。
でっかい図体してるのに、それはかわいらしく笑うのだ。「そりゃこの店だよ」と。
「こんなに小さいけどな、お前のようにいつも来てくれる常連がいる。この街に始めて来たような観光客もいる。いろんな人が集まって、いろんな出会いがある、この店を、この街を、オレは愛しているのだよ」
「・・・うん、良いよね」
「この店?」
「この街(笑)」
こらっ、と笑いながら小突かれた。他愛もない日常。だけど大切な日々。
急にこの街がとてもいとおしくなって、全体を見渡して見たくなった。
そしてバールを出る。
相変わらず、ヴェッキオ橋は観光客でにぎわっている。
アルノ川は絶え間なく流れ、この橋は何百年もこの街と共にあるのだ。

Ponte Vecchio(ヴェッキオ橋)からの眺め

橋を渡って、市内中心部から少し離れた、小高い丘にあるミケランジェロ広場へ向かう。
この日はとても暑くて、日差しを遮るものがないこの場所に人はまばらだった。
夕暮れ時も素敵だ。
ドゥオモなど街中がオレンジ色に染まる。そこで優しい風が吹いたなら、とてもロマンティック。
恋人と寄り添って、眺めていたい。

Piazzale Michelangiolo(ミケランジェロ広場)からの眺め

・・・あ?恋人?
そうだ、あの時、あの夢の中でこの手をすり抜けていった大切な”何か”って、アノ人のこと?!
ふと胸に、夢の中でのことなのに、やけにリアルな痛みが蘇ってくる。
今日はまだアノ人に会っていない。
今すぐ会いたい・・・。

Chiesa di San Miniato al Monte(サン・ミニアート・アル・モンテ教会)

気持ちは逸るけれど、先に広場の南の方に建っている教会へと向かった。
真っ青な空に、眩しいほどの白。それはとても神々しくて・・・。
そして祈りを。

・・・・大切なアノ人と、大好きなこの街で、ずっと一緒に過ごせますように。


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